認知症の親の火の元対策 ガスコンロの消し忘れにどう対応? もめない介護4
更新日 編集協力/Power News 編集部
「お母さん、また火をつけっぱなしにしてる!」
「ああ……、ちょうど今、消そうと思ってたところだったの」
認知症に限らず、親が年をとってくるとそんなやりとりが増えていきます。“つい、うっかり”は誰にでも起こりうることですが、しょっちゅう鍋を焦がすのは認知症のサインのひとつでもあり、あれ? と違和感を覚えたときに、見過ごさないことが大切です。
ただ、離れて暮らしている場合はもちろん、一緒に暮らしていたとしても親が火を使うのを常に見守るわけにもいきません。ではどうすればいいのか。
我が家の場合、「ガスコンロの消し忘れ」が増えているのがわかったのは、もの忘れ外来の受診がきっかけでした。診察のとき、「最近、妻がしょっちゅう火を消し忘れていて危なっかしい」と義父が訴えると、義母も負けずに「お父さまがガスの火を消さないので、見張っていなくちゃいけない」とアピール。
夫の実家では、もともと義母が料理を担当していましたが、義父も台所にまったく立たないわけではないようでした。ふたりともアルツハイマー型認知症と診断されたものの、日常的なできごとは比較的はっきり覚えていたり、そうでもなかったりすることが混在。おそらくどちらの記憶もまったくの間違いではなく、お互いにそれぞれの失敗(消し忘れ)は印象に残っているものと推察されました。
さて、ここで困ったのが、火の始末対策です。義父母は夫婦ふたり暮らしなので、火を消しているかどうかを確認してくれる第三者がいません。
原因を絶つことがベストではない
「ガスの元栓を閉めて、使えなくすれば安心なんじゃない?」と義姉。また、「ガスをやめて、IH(電磁誘導加熱)クッキングヒーター(以下、IH)に変えるのはどう?」という提案もありました。
ガスの元栓を閉め、ガスコンロが使えなくなれば、必然的に消し忘れの心配はなくなります。でも、そうすると調理はこれまでのようにはできなくなります。義父母の場合、以前は使えていた電気ポット(湯沸かし機能付き)の操作がわからなくなっており、ガスを止めてしまうとお茶を飲みたいと思っても、お湯も沸かせなくなることに。
では、ガスからIHに変更するのはどうでしょうか。ちょうど、数年前にわたしの実家で台所をリフォームし、オール電化に変えていたので母に意見を聞いてみました。すると、こんな答えが返ってきました。
「60代のうちならまだ変化に適応できると思って、IHに変えたけど、それでも慣れるまで時間がかかったよ。人にもよると思うけど、70代後半を過ぎるときついかも」
義父母は当時、どちらも80代後半。ケアマネジャーさんにも相談してみましたが、やはり「年齢を考えると、IHは難しいかもしれません」という答えが返ってきました。また、「いきなりガスを止めてしまうのはおすすめできません……」とも。
というのも当時は、認知症だということがわかったばかり。不承不承ながら訪問介護(ヘルパー)や訪問看護の導入を了承したという段階で、「あれはダメ、これはダメ」と禁止されると、親のストレスが急増し、認知症の進行に悪影響を及ぼす可能性があるとのこと。さらに、「何かあったら危険だから」と禁止してしまうと、本来は残っていたはずの能力まで奪うことになりかねないという助言もありました。
焦らず状況に合わせた対応を
もっとも、このあたりは火の消し忘れの度合いによっても判断が変わってくるかと思います。例えば、てんぷら鍋を火にかけて忘れちゃう……みたいな状態であれば、待ったなしで「ガスの元栓を閉める」を選択したはず。義父母の場合、消し忘れはあるものの、たいていは空焚きの一歩手前止まり。派手に鍋を焦がすところまではいっていないような段階でした。
いろいろ話し合った結果、
①ガスコンロを同じメーカーで操作も同じタイプの「立ち消え防止機能付き」に変更
②古い火災報知器を新しいものに変更
③ダメもとで電気ケトルを導入
の3つの対策から試してみることにしました。
その約半年後、義父が在宅酸素療法のための酸素ボンベを一時的に使うことになったのをきっかけにガスの元栓を閉めました(義父が酸素ボンベをつけているのを忘れ、うっかりガスコンロに近付き、火をつけると、引火爆発する危険があったためです)。そして、それ以降は「ガスコンロは使わない生活」にシフトすることに。
義母は今でも時折「ガスが使えないとすごく不便」「早くガスコンロが直らないかしら」とこぼします。ただ、「これ(電気ケトル)ってすごく早くお湯がわくのよ!」と教えてくれることもあります。義父はおそらく、危険防止のためにガスの元栓を閉めたままにしていることを理解していますが、素知らぬ顔で「ガスは使えないんだよ」とフォローしてくれています。