紙パンツが支える「フレイル予防」 便利グッズ使いながら外出や交流が今流シニア
取材・文:岩崎賢一 イラスト:ゆぜゆきこ

シニア世代の生活にブレーキを掛けているのが、トイレの不安です。この不安は、フレイル(虚弱)予防で大切な外出や社会参加、人との交流の機会を妨げていまいがちです。介護が必要になっても住み慣れた地域でできるだけ自立した生活を送ることができるようにするためにも、トイレの不安の解消がポイントになります。朝日新聞社なかまぁる編集部では、これらの課題を乗り越えるため、紙パンツを前向きに活用する家族に、使用するきっかけや家族とのコミュニケーションの方法について聞きました。
ケース① 北海道の80代と50代の親子
スポーツクラブ、デイケア…外出し続けたい気持ちを支える
北海道で長女夫婦と暮らす父親(80代)は、5年前まで平日バスに乗ってスポーツクラブに行っていました。同居する長女(50代)によると、スポーツクラブに通うといってもフリースペースで自分流に体を動かし、大浴場の湯船につかってくるのがルーティンでした。外出好きでしたが、前立腺の手術をしたことがあり、頻尿でした。
転機は、バスの中で尿漏れをしてしまったことでした。
「家に帰ってきた後、父が『パンツを洗っとけ』と言うので、『何で?』と聞き返すと『バスでチビっちゃったから』と言うんです。他人に迷惑がかかると思って、少しずつ紙パンツの利用を増やしていきました。気が付いたら毎日、紙パンツになっていたという感じです」
現役時代の仕事柄もあり「プライドが高かった」という父親が、大きな抵抗なく受け入れたのはなぜか。
「父は尿漏れの不安と同時に、紙パンツを履いてスポーツクラブに行く人はいないというイメージがあって抵抗感を持っていたようです。それでもスポーツクラブに行って知人に会いたいという気持ちがより大きかったから受け入れたと思います」
紙パンツの選択では、いくつかの種類を試しました。父親に、肌触り、フィット感、動きやすさを確かめながら、「一人で歩ける人用」の紙パンツとパッドの併用に決めました。

「トイレの自立」は維持してほしいと願う家族
父親は、コロナ禍でスポーツクラブに通うことができなくなる一方、2022年5月、介護保険の要介護認定では要支援1から要介護1へ変更になりました。そのためフレイル予防として週3回、送迎があるデイケア(通所リハビリテーション)に通い始めました。他の日も、近所の公園に散歩に出掛けたり、大好きなウイスキーを買いに出掛けたりすることで、歩く機能の維持に気をつけた生活をしています。
「杖を使ってでも歩かないと、歩けなくなってしまう」という思いが父親は強いそうです。最近は、トイレの便器に座るとなかなか立ち上がれなくなってきているそうです。
「排泄介助をどこまでできるか自信がありません」という長女にとって、父親が閉じこもりがちになり、家の中であまり動かなくなることによるフレイルの進行はできるだけ避けたいところだといいます。
ケース② 東京都の80代夫婦
趣味の集まり、旅行…紙パンツが支える80代夫婦の日常
東京都内で2人暮らしをする80代の夫婦は毎日、午前10時ごろに朝食、午後3時ごろにおやつ、午後7時ごろに夕食といった規則正しい生活を続けています。
夫は、今も仕事をしつつ週2~3回は趣味の集まりを楽しんでいます。足腰の衰えはあるものの、電車やタクシーを利用して集会に通い、仲間との交流を楽しんでいます。要介護認定は受けていません。こうした外出を支えているのが、インターネットのECサイトで購入している紙パンツです。妻がその理由を明かしてくれました。
「こんなに便利な社会になってきたでしょ。だからそれを上手に使いこなして生活することが大切なんじゃないかなと思います。私たちは今が『老後』だとは思っていないんですよ」

何回か失敗して切羽詰まらないと使い始めない
夫は18年ほど前に前立腺の治療をしました。医師から「寛解した」と言われているものの、80歳を過ぎてからトイレに行く回数が増えたことが悩みの種でした。そんなとき、妻がテレビのCMでうす型の紙パンツがあることを知り、夫に勧めたのが利用の始まりでした。
「『これいいね』と抵抗感なく受け入れてくれました。尿漏れを恥だと思っていないし、年齢を重ねてくれば当然だと考えています。コロナ禍前、海外旅行に行くときは、夫婦そろって紙パンツを利用していました」
実は、夫は紙パンツを利用する前、布製の吸水パンツを利用していました。妻は1日何度もあるその洗濯に負担を感じていました。
「洗濯しても厚手の部分がなかなか乾かないんですよね」
妻も友人らと話すと、何をするにしてもトイレが近いことが悩みの種だという声を何度も耳にしていました。
「誰でも、一度失敗するとすごくショックを受けて家に閉じこもりがちになってしまいますよね。でも、何回か失敗して切羽詰まらないと、新しいもの(紙パンツ)を使ってみようと思うようにならないんですよ。男性は女性のように生理用品を使った経験もありません。そこで、いきなり『紙オムツ』と言うから避けるんだと思います。社会全体で『紙パンツ』と言うようになれば抵抗感はなくなると思います」
自立の維持…家族が背中を押してあげることも大切
朝日新聞社なかまぁる編集部がインターネットを通じて「シニアのトイレ、排せつ介助、フレイルに関するアンケート」を行い、主に家庭で紙パンツを利用する家族から声を集めたところ、約260件の回答が寄せられました。介護保険の要介護認定を受けていない人の家族から要介護5の家族まで、フレイルの状態や抱えている病気、障害などによって、外出する機会を維持することを目的とした超うす型の紙パンツから、ベッドの上でほとんどの時間を過ごす人向けの厚型やテープ式の紙パンツまで、多様なタイプを試行錯誤しながら利用していることが浮かび上がりました。
ケース①の80代夫婦の妻が言っていたように、紙パンツは「ギリギリになってから使うもの」という認識や、排泄介助をする家族がはき心地や活動性よりも漏れ防止や取り換える回数の軽減に重きを置いて厚めで大きめなタイプを利用している人が目立ちました。

紙パンツは「トイレ介助をする家族の精神的安心感」
入院したとき、初めて紙パンツを体験する人も少なくありません。通称「リハビリパンツ」です。入院しても在宅復帰のためにトイレに行く努力をしつつ、もしものために紙パンツをはいておくと安心という意味からです。
鹿児島県で長女(40代)が毎日通いで介護をしている母親(60代)も、脳出血の入院時に紙パンツを使い始めました。後遺症で体の一部が不自由になり、家の中でも車いすで移動してトイレに行っています。最初に倒れた50代のとき、母は尿漏れパッドを使っていました。
「くしゃみをしたときに下着だけでなく、ボトムまで着替えなくてはいけなくなり、出掛ける際に(尿漏れを)心配していたからです」
長女によると、そのような習慣があったことから紙パンツに切り替える際も説得で苦労することはありませんでした。長女は「(紙パンツは)トイレ介助をする家族にとって精神的安心感も強いです」と話しています。
家族や周囲の人たちが背中をちょっと押そう
沖縄県で長男(50代)家族と一緒に暮らす長男の母親(90代)は、今も介護保険の要介護認定は受けておらず、外出が大好きです。紙パンツの利用を始めたのは、80代後半から。きっかけは、お出かけが大好きな母親が「トイレが近くなったから、(外に)行きたくないさ」と言い出したことからでした。医療現場で働く長男の妻は「これ履けばいいよ」「冬は暖かいよ」と紙パンツを勧めたそうです。
母親の紙パンツを購入するのは、長男の妻や孫娘の役割です。長男の妻はこう話します。
「便利なものを使いながら、生活をエンジョイする方がいいでしょう。そのためには家族や周囲の人たちが背中をちょっと押してあげることが大切だと思います」
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