アルツハイマー型認知症の克服を目指して

<*内容は「すべてがわかる認知症2017」に掲載された時点の情報です>

前駆期と呼ばれる患者は、自覚症状が少なく、医療機関になかなか足を運ばないため、臨床試験に組み入れるのが難しい。実はソラネズマブが承認申請を断念したのも、この辺に大きな理由がある。米イーライリリーの日本法人・日本イーライリリー研究開発本部の中村智実氏は、「ソラネズマブは軽度ADの患者で臨床試験をおこなったが、この段階でも症状はある程度進行しているため、対象として的確ではなかったとの専門家の意見は多い」と語った。

また、ソラネズマブはAβの第1段階であるモノマーを標的としていた。初期に血中にあるモノマーを減らせば、脳内のAβが血中に出てきてバランスを保とうとし、結果として脳内のAβが減るという「シンク仮説」に基づいた薬剤だったからだ。しかし、想定したほど脳内のAβは減少しなかった。

とはいえ中村氏は、「少ないながらも効果は認められたので、ソラネズマブが完全に失敗したとは思っていない」と語る。現在、新薬の臨床試験は中断したが、国際的な官民共同試験が進行しており、そこで成功すれば、再び日の目を見る可能性もある。

この対照的な結果は、他社の抗Aβ抗体開発にも影響を及ぼしている。Aβのプラークを標的とする「ガンテネルマブ」、オリゴマーをメイン標的とする「クレネツマブ」という2種類の抗Aβ抗体を開発する中外製薬。同社はアデュカヌマブの試験結果を基に、いずれの薬剤でも臨床試験の投与量を増量して臨床試験を再設計する方針を固めた。中外製薬のプライマリーライフサイクルマネジメント部の中谷紀章氏は、「Aβのなかでオリゴマー、プラークのどちらがADの主犯格かはまだわからない。今後われわれや各社の臨床試験の結果で、こうしたAβ仮説のさまざまな疑問が明らかになる」との見通しを示す。

アルツハイマー型認知症克服へ 各社の挑戦は続く

アリセプトを開発したエーザイは新たに、抗Aβ抗体の「BAN2401」とβセクレターゼ(BACE)阻害薬の「エレンベセスタット」を開発中だ。BACEはある種のたんぱく質からAβのモノマーを切り出す働きをする酵素。BACE阻害薬はいわばAβの源流を断つ戦略だ。後者は全世界で合計2660人の患者を集め、2つの臨床試験を実施している。

各社とも互いを横目で眺めながら、まさにトライアル・アンド・エラーの連続で治療薬の開発を進めている。これらのうち最も早く患者に届くものは、うまくいけば20年前後に登場する見込みだ。

ただ、現在開発中のAβターゲットの治療薬はADの進行を遅らせる薬で、完全に治せるものではない。しかし、これは必ずしも暗いニュースではない。そもそもADの発症は60~70代に多い。今後登場する複数の薬でこれを10~15年遅らせることができれば、天寿にほぼ近づき、事実上のAD克服といえるからだ。

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