アルツハイマー型認知症治療薬開発のいま

<*内容は「すべてがわかる認知症2017」に掲載された時点の情報です>

仮説とはいえ現時点で最有力であるため、現在のAD治療薬開発の主流は、Aβをターゲットにしたものに集中している(下表参照)。多くはAβを排除する抗体(抗Aβ抗体)を注射で投与し、Aβを取り除こうとしている。ただ、仮説ゆえに開発途中で数々の困難にも直面している。

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アルツハイマー型認知症の新薬開発状況(海外との国際共同臨床試験も含む)
*−は詳細不明あるいは未定 *試験終了予定は厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構に製薬企業が提出した治験計画届書に記載のもの。なお、一つの開発品で複数の治験計画がある場合は終了時期の遅いものを記載。

実際、16年11月、AD治療薬を開発する関係者や患者を落胆させた出来事が起きた。米の大手製薬会社・イーライリリーが、臨床試験を実施していた「ソラネズマブ」という抗Aβ抗体について、医薬品としての承認申請を行わないと発表したのだ。早期認可が期待されていたが、最終段階の国際共同臨床試験・EXPEDITION3の結果、偽薬と比べ、明確な有効性の差が示せなかったからだ。

既に12年には米ファイザーの抗Aβ抗体・バピネオズマブも十分な有効性が示せずに開発中止に追い込まれており、一見するとAβ仮説に希望の光はないかのように見える。

ところが、別のところでは明るい兆しが見え始めている。ソラネズマブの承認申請の断念に先立つ169月、イギリスの有力科学誌「ネイチャー」に米バイオジェンが開発する抗Aβ抗体「アデュカヌマブ」が初期の試験で有効性を示したことが報告された。

この試験では放射性診断薬を用いた陽電子放射断層撮影法(PET)という画像診断で、アデュカヌマブを投与した患者の脳内ではAβ量が徐々に減少することが明らかになったのである。

しかも、CDR-SB(臨床的認知症重症度判定尺度)、MMSE(ミニメンタルステート検査)といった認知機能テストでも、偽薬を投与した群に比べて病状の悪化は少なかった。このまま試験がうまく進めば22年前後に実用化が見込める。

米バイオジェンの日本法人バイオジェン・ジャパンの社長で研究開発本部長も務める鳥居慎一氏は、「アデュカヌマブが持つ特性と臨床試験の手法が良好な成績の理由だろう」と説明する。

具体的に説明すると、アデュカヌマブは前述のAβで最も毒性が高いとされる脳内のプラークを標的にしている。また、従来の抗Aβ抗体の臨床試験では、ある程度症状が進行した患者を対象にしていたが、アデュカヌマブでは、軽度あるいはその直前の前駆期と呼ばれる超初期のAD患者を対象としたのだ。

臨床試験のフェーズ

新薬の承認申請を行うための臨床試験は主に3段階のフェーズを経る。フェーズ1は、少数の患者を対象に薬の安全性を中心に確認、フェーズ2は投与量や投与方法で薬の有効性と安全性を確認、フェーズ3は、従来の治療薬などと比べ、有効性や安全性の面で優れているかを確認する。
ただし、フェーズ1とフェーズ2を兼ねた臨床試験デザインのフェーズ1/2、フェーズ2とフェーズ3を兼ねたフェーズ2/3などもある。

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2019年3月5日更新

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