困難を極める新薬開発

<*内容は「すべてがわかる認知症2017」に掲載された時点の情報です>

アルツハイマー型認知症の治療薬をつくるべく、各社が競って研究を進めている。だが、それは容易ではない。研究の現場を取材した。

困難を極め、進まぬ新薬開発

高齢化に伴い増加するアルツハイマー型認知症(以下、AD)に関しては現在、4種類の治療薬が存在する。しかし、日本では2011年7月を最後に、ADに対する新薬は登場していない。患者数が増加の一途をたどっている病気で、ここまで長期にわたって新薬が登場しないケースは珍しい。

この現象は日本特有のことではない。アメリカ研究製薬工業協会が15年7月に公表したAD治療薬の開発に関する報告書では、同協会会員の製薬企業が1998~2014年に臨床試験をおこなったAD治療薬候補127成分のうち、製造承認に至ったのはたった4成分。確率にして3.1%だ。一般的に、薬の開発では臨床試験に入ったもののうち10%強が患者に投与されるところまで行きつく。つまり、これはかなり低い成功確率なのだ。

AD治療薬の開発の困難さに関して、昭和大学薬学部薬理学講座教授の野部浩司氏は、「ADはいまだ原因が明確ではないにもかかわらず、新たな物質(新薬)の効果を評価することが求められている難しい領域」と語る。簡単に言うなら、正体のわからない敵に効果のわからない手段で立ち向かうという状態なのだ。

その理由に迫る前に、そもそもADが起きる仕組みを説明したい。ADはアミロイドβ(以下、Aβ)、タウと呼ばれるたんぱく質が塊を形成して脳内に蓄積することで神経細胞が死滅し、記憶障害などの症状が出る。この過程で神経細胞が弱っていき、神経と神経の間で情報伝達を担う神経伝達物質の量も異常になり、記憶力の低下に拍車がかかるとされている。現在ある4種類の治療薬は、いずれも神経伝達物質の量を調整し、記憶力低下を回復させる。

Aβとタウの蓄積を止める薬が必要

しかし、この回復は一時的。この間にもAβやタウの蓄積で神経細胞の死滅は進行していくので、これら治療薬で神経伝達物質の量を調整しても意味がなくなってしまうからだ。より根本的な治療を目指すならば、Aβやタウの蓄積を止める薬が必要になる。

実はこのAβとタウの蓄積は、ADの原因とは断定できていない。進行とともに患者の脳内に蓄積が進むため「原因だろう」と推定されている仮説なのだ。Aβ仮説とは、こうだ。Aβのたんぱく質は3段階あり、酵素によって切り出されてできた最初の

Aβはモノマーと呼ばれ、これが複数絡み合ってオリゴマーになり、さらにそれらがプラークという塊を形成して脳内に張りつき、徐々に神経細胞を侵してADに至る。段階を経るごとにAβは毒性を増していく。

〈つぎを読む〉アルツハイマー型認知症治療薬開発のいま

あわせて読みたい

この記事をシェアする