難聴で認知症のリスク高まる

聴力の衰えと認知機能の低下の関係については研究が進んでおり、厚生労働省の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)でも、難聴は認知症のリスク因子のひとつとされています。

聴力は、年齢とともに低下していきます。低下の仕方や聞こえの程度には個人差が大きいとされていますが、一般的に、老化が始まるといわれる30代からゆっくり進み、65歳を過ぎると難聴の有病率は急激に増加します。65歳以上では約45%、80歳以上では80%の人が難聴といわれており、慶応義塾大学医学部教授の小川郁医師は、「現在、国内には介入が必要な難聴者が約900万人いると考えられる」といいます。

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年代別の難聴者の割合

聞こえの低下が認知機能の低下につながる原因として、小川医師は次のように話します。

「人にとっては、聴覚情報のなかでもとくに言語情報が多く、言葉が耳から入ると、頭の中では常に『思考』と『情動』による反応が起こります。単に音としての刺激だけでなく、入ってきた言葉、情報に対して、どう応答するか考えたり、その言葉によって喜んだり悲しんだり怒ったりし、そうやって脳が働くことで認知機能が維持されているのです」

聞こえが悪くなり、外からの情報が入らないと、考えたり感じたりすることが減ります。また、他者とのコミュニケーションや活動が減ることにもつながります。

「例えば誰かが話しかけたときに、聞こえずに返答しないと、話しかけた人は『無視された』と感じて気分を害するかもしれません。そういうことが続くと、社会や家族の中で孤立し、会話をしない、外出しないなど、コミュニケーションや活動が減っていきます。それにより、認知機能の低下につながることも考えられます。脳の機能は使うほど活性化し、使わなければ衰えていくのです」(小川医師)

補聴器を使うことで聴力を回復できる

聴力と認知機能の関係について、諸外国では多くの研究報告があるといいます。60歳代の605人を対象に実施した全米国民健康栄養調査では、「25デシベルの聴力低下があると、聴力低下のない人と比較して7年早く認知機能の低下が進む」という報告が得られています。

また、フランスで25年間の追跡調査を実施した結果、補聴器を装用して聞こえを適正に補うことで認知機能の低下が抑制されるという報告が得られています。日本では、まだ公式な研究結果は出ておらず、これからデータの集積と解析が進められると小川医師は話します。

認知機能の低下を補聴器が抑制
認知機能の低下を補聴器が抑制

「しかし、診療の場で患者さんを見ていると、補聴器などで聞こえが改善することで、本人や家族から『会話が増えた』『明るくなった』などという声が聞かれるので、生活や行動、気持ちが変わることは間違いないと思われます」

現在のところ、加齢による難聴を治す治療法はありません。しかし、補聴器を装用することで聴覚機能を補い、聞こえを改善することは可能です。

「日本では、補聴器の普及率はまだ低く、聞こえの悪さを認めたくない人、『年のせいだから仕方ない』とあきらめてしまう人が多い実情があります。認知機能の低下を予防するためにも、聞こえの悪さを自覚したら耳鼻咽喉科で相談し、補聴器の装用を検討することをおすすめします」(同)

<続きをみる>補聴器の正しい選び方

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