認知機能が改善する白内障の手術

近年、視力低下が認知機能に及ぼす影響についての研究が進められています。白内障による視力の低下と、認知機能やQOL(生活の質)との関係について、今、わかっていることを知っておきましょう。

80代でほぼ全員が発症する白内障

白内障とは、加齢などによって眼のレンズである水晶体がにごる病気です。本来、外から入る光は水晶体によって屈折し、網膜に像を映します。しかし、白内障などによって水晶体がにごると光が正常に屈折されず、網膜に適切な像が映らなくなります。

すぐに失明してしまうなど緊急を要する病気ではありませんが、視界がぼやけたり、ものが二重に見えたりという症状から始まり、進行すると視力が低下して日常生活に支障を来すようになります。

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白内障の眼
外から入った光は水晶体によって、屈折して、網膜に像を映す。水晶体が濁ると、光がうまく屈折せず、網膜に鮮明な像が結べなくなる。

白内障の原因のほとんどは加齢で、早いと40代から発症し、年齢が上がるにつれ有病率も上がります。80代では100%、つまり、すべての人にみられます(下のグラフ参照)。

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白内障の有病率

視力の低下が、記憶や理解、学習などの認知機能に影響を及ぼす可能性については、近年研究が進められています。視力は、聴力と同様、脳に多くの情報や刺激をもたらし、「脳に送られる情報の80%以上が眼を通して入ってくる」ともいわれます。認知機能の低下に結びつく原因として、視力が低下して眼からの情報が減るために、脳に送られる情報が減少し、その状態が長く続くことで脳の働きが低下することが考えられます。

また、ものが見えにくくなることで、活動量が減ったり、閉じこもりがちになり人とのコミュニケーションが減ったりすることも、認知機能の低下につながる可能性が考えられます。

さらに、「光が網膜に届かないことによる影響も考えられる」と、筑波大学教授の大鹿哲郎医師は話します。健康な状態では、光が網膜に届くことで、脳の下垂体などから分泌されるホルモンがコントロールされ、体内時計が正常に働きます。しかし、水晶体がにごり、網膜に光が当たらないことでホルモンの状態が変化するといいます。「それによって睡眠障害や生活リズムの乱れ、意欲の低下などがみられることがあり、認知機能に影響を及ぼす可能性が考えられます」(大鹿医師)

筑波大学では、白内障の手術を受けた55~93歳の88人を対象に、手術前と手術2カ月後に「見えやすさ」と「認知機能(MMSEの点数)」の変化について調査しました。その結果、手術後の視力改善によりものが見えやすくなり、認知機能の改善(下ののグラフ参照)、うつ症状の改善、QOLの向上がみられました。

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白内障手術前後による認知機能の変化

視力の改善で認知機能やQOLも改善

また、奈良県立医科大学で、3千人の高齢者を対象として実施された大規模疫学調査でも、視力のいい人は悪い人と比較して認知機能が高く保たれており、視力の悪い人はいい人より認知症の発症リスクが高いと報告されています。

大鹿医師は次のように話します。「視力の低下により、引きこもりがちになって寝たきりのような生活をしていた人が、手術をして視力が回復したら元気に歩き始めたケースもあります。また、自分の身なりに関心を持たなくなって、髪もとかさずに診察に来ていた女性の患者さんが、術後はきれいにお化粧して来るようになることもよくあります。『見える』ことは、認知機能だけでなく、人の意識やQOLにも大きな影響を与えるものだと実感しました」(同)

ただし、筑波大学の調査では、対象者に「すでに認知症を発症している人」は含まれておらず、認知症を発症した後に白内障の手術をしても、認知症が治癒することはないとされています。

大鹿医師も「認知機能の低下」と、実際の「認知症の発症」とはイコールではなく、「視力の回復により認知症を予防できるかどうかまでは、現状ではわかりません」としながらも、「見えないよりは見えたほうが、人の心身の健康にとって確実にいいことは明らか」と話します。

〈つぎを読む〉白内障は手術で改善できる 早めの受診を

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