認知症になっても「自分で食べる」を大切に

もしも認知症やその予備軍(軽度認知障害)であるという診断を受けた場合でも、「よくかむ」「自分で食べる」という行為は非常に大切です。高齢者の歯科医療に詳しい九州大学大学院教授の柏﨑晴彦歯科医師はこう話します。

「かむことによる脳の刺激や血流の増加は、認知症の進行を遅らせる効果も期待できます。手や指のこまかな動きも脳を活性化させますから、自分で箸やスプーンを使って食事をし、食後歯みがきするということで、できるだけ長く、普通の生活を維持することが可能になるのではないでしょうか」

しっかりかんで食べるという意味でも義歯の装着は大切ですが、広島大学の調査では、適合した義歯をつけることで認知症の患者の転倒回数が減ることもわかりました(下グラフ参照)。前出の志賀歯科医師はこう説明します。

「歯を失い、かみ合わせが悪くなることで全身のバランス感覚も崩れるのです。単に義歯が入っているだけではなく、正しいかみ合わせの義歯をつけることで転倒などによる骨折を防ぎやすくなります」

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歯と転倒回数との関係 かみ合わせを調整した義歯をつけると転倒回数が減る

口から食べることは健康長寿の必須条件

「口から食べることは、誤嚥性肺炎による死亡を防ぐ意味でも非常に重要です。かむ、のみ込むという機能を維持することで、誤嚥が起こりにくくなるからです」と、柏﨑歯科医師は言います。

また、認知症が進んで胃ろうや点滴で栄養を補給するようになると、新たな問題が起こるのだそうです。

「口から食事をしなければ口の中は汚れないと思いがちですが、実は逆です。口からまったく食べられなくなると口腔内の細菌叢が変化し、肺炎の原因菌が増えてしまうことが最近の研究でわかってきました。多少でも口から食べられるほうが、口の中の菌は正常な状態を維持できるのです」

前出の落合特任教授も「口から食べることは、寿命を支えるうえでもっとも基本的なこと」だと言います。落合特任教授は腸管の変化に着目してこう説明します。

「点滴で栄養を補給するようになると、腸での消化吸収が不要になります。腸には全身の7〜8割にあたる免疫細胞が集まっているのですが、使われなくなった腸管壁は薄くなるため、免疫細胞は著しく減少します。口から物を食べるということは、全身の免疫機能を守ることでもあるということを忘れないでください」

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