認知症の治療

本来の自分に少しでも近い状態で生活を続けられるように

「認知症になったら終わり」「早期発見は早期絶望」というイメージが、過去にはありました。しかし現在はアルツハイマー型認知症を中心に、効果が期待できる抗認知症薬が増え、認知症治療の選択肢は広がったといえます。

 早い治療ほど効果大 いい状態をできるだけ長く

その一方で、「治療したって治すことはできないんでしょ?」という声もあります。確かに、まれなケースをのぞき、認知症が治ることはありません。しかし、花咲会かわさき記念病院病院長の福井俊哉医師は「治る、とは何でしょう?」と問います。

「確かに認知症は、かぜや切り傷のように、完全に治ることはありません。しかし、がんでも、糖尿病でも、高血圧でも、成人期の病気は完治しないものばかりです。

それでも『本来の自分』に近い形で生活し続けるために治療するのです」そのためにも早期治療は重要です。第一の利点は、生存期間が延びることです。薬物治療を始めて1年程度は、薬を飲む前よりいい状態を維持できます(下グラフ参照)。効果は初期・中期・後期のどの段階でも同じように表れますが、早い段階から飲み始めたほうが「本来の自分」を保つことが可能です。

そして、進行をいったん止めることで、本人と家族に「心と時間の余裕」が生まれることが第二の利点です。「症状が軽い段階で食い止められれば、本人も家族も、認知症の特性について学び、理解を深める時間がつくれます。準備も心構えもできる。その後進行してからの大変さが違います」(福井医師)

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認知症治療薬の効果のイメージ

BPSDを抑えるためにはまず中核症状の治療を

薬物治療で中核症状が安定してくれば、BPSD(行動・心理症状)も出現しにくくなります。症状が安定していれば、非薬物療法も取り入れやすくなり、さらによい効果をもたらしていきます(下図参照)。

「非薬物治療の重要性が語られますが、薬物治療にやや重きをおき、両輪で進めるのがいいでしょう」(同)

ときには、対症療法的にBPSDを薬物で抑えることも必要です。しかし、薬剤使用は慎重であるべきだと福井医師は話します。「たとえば『夜間せん妄』か『レム睡眠時行動障害』かで使う薬は全然違うのですが、医師はその状態を実際に見ていません。介護者の『寝ないで騒ぐ』の言葉をうのみにせず、真の症状を見極める努力が必要です。

また、薬に頼るだけでなく、本人の不安、家族のつらさを理解し、できることを探るのも医療の仕事です」

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認知症の治療で期待できる効果
認知症の治療で期待できる効果
薬物療法  抗認知症薬などを使い、中核症状の進行を改善、あるいは進行をゆるやかにする。
非薬物療法 人と交わって運動・音楽活動をする、多種多様に頭を使うなどは脳全体の働きを活性化し心を落ち着ける。
病気の知識・理解 認知症の一般的な知識のほか、疾患特有の症状を理解する。家族会や勉強会などへの参加がおすすめ。

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